紅葉色の恋に射抜かれて

「自分に負けない、しっかり的を見る」


私は練習中に葉山先輩がかけてくれた『自分に負けるな、しっかり的を見ろ』という言葉を復唱する。


『お前ならできる、大丈夫だ』


葉山先輩はそう言ってくれたから、私は長い黒髪を結って気合を入れた。


「私ならできる、大丈夫」


誰もいない弓道場に私の声が響いた、そのとき――。


「早いな、もう来てたのか」

「ひゃあっ」


突然、声をかけられた私は変な悲鳴をあげてしまった。

慌てて口元を両手で押さえながら、恐る恐る振り返る。

そこには、笑いを堪えているような顔の先輩がいた。

制服姿の先輩は白のシャツに、ベストとお揃いの紺色のネクタイを上までしっかり絞めている。

同じく紺地のチェックのズボンはシワひとつなく、きっちり着こなしていた。


「悪かった。六実がそこまで驚くとは……思って、なくてだな」


ぴくぴくと痙攣している唇に、震えた声。

葉山先輩は私に悪いと思っているのか、 口元を手の甲で押さえていた。