意味が分からない。まだ社へ戻れば、他の仕事を少し片付けるくらいの時間はあるはずなのに。
「すぐに定時になるからじゃないかな」
高木君は、私に腕時計を見せると。例え一旦社へ戻ったとしても、定時までに業務できる時間は三十分有るか無いか、という位に微妙だからだろうと口にした。
「そっか。じゃあわたしはここで。お疲れ様」
片手を挙げ、高木君に別れを告げた私は、瞬時に手首を掴まれてしまった。
「独りでちゃんと帰れる? 送るよ」
「子供じゃないんだから、大丈……夫」
ヘラッと作り笑いしてみせた私の頬に、また高木君の右手が添えられた。
高木君は、真顔で。少し不満気な表情を浮かべ、私を見つめている。
「たまには甘えろよ。というか、なんで甘えてくれないんだ」
「あ、甘えられるわけ無いでしょ。高木君は年下で、後輩なんだし」
後輩になど甘えられない。と強がってしまったけれど。
そんなわたしの本心を、知ってか否か。
高木君は、掴んでいる私の手首を離すことなく歩き出したのだ。



