「……さっきは、ありがとうございました。」

穂海がまた寝たあと、医局に戻ってきて、先に戻ってきていた清水先生のデスクの所に向かった。

清水先生は俺が頭を下げると少し笑って医局内のソファのある休憩スペースに移動することを提案した。

「さっきはお疲れ様。」

そう言って、清水先生は俺の分までコーヒーを出してくれる。

「ありがとうございます。……俺、何も出来なくて…。穂海に聞いても首を振るばかり、何も言ってくれなくて穂海のことわからなくて……。でも、先生が来てくださってからすぐ穂海…なんで泣いてるかわかって。」

「まあまあ、そんなに落ち込まないで。ああいう時はさ、少しコツがあるんだよ。まあでも、俺も時間かかって少しずつわかってきたから、経験もあるかな。だから、そんなに気にすることないよ。今日のも1つ学びになったって思ってくれたらいいしね。」

そういう清水先生は、本当に優しくて、こういう時本当なら俺が不出来なことを怒ってもいいと思うのに、そんな素振りは一切ない。

「……先生は、本当に…やさしいですね。」

「そう?瀬川くんも十分優しいと思うけど。」

一切謙遜しない態度にまた、先生の人の良さが垣間見える。

「俺、最近、ちょっと自信なくて……。…穂海のこと守るってあんなに言ったのに、全然守れないどころか、自傷の兆候も、今日の穂海の気持ちも全然見抜けなくて…。何ならまだ、穂海の背負ってる重たいものがどれだけあるかわからないんです。穂海が何にそんなに苦しんでいるのか、苦しみを取り除けたと思ったのにまだ苦しんでたり、まだ悩んでたりして…。……こんなんで、俺いいのかなって…。」

気付けば自分でも情けないくらい声が震えていた。

わからないのが、力及ばないのが悔しくて…情けなくて……

「うーん、こういう時はわざと厳しいこと言った方がいい?」

そう清水先生はいたずらっぽく笑う。

「……厳しく言うとね、瀬川くんは自信が無いからわるいの。自信が無いのが穂海ちゃんにも伝わってる。瀬川くんは研修医かもしれない、けど穂海ちゃんの前ではそんなの関係なくて、一医者なんだよ。医者が患者の前でそんな自信なくて、なんで患者が前向けると思う?医療者として俺たちは、患者さんが前向けるように、"治したい"って思うようにしてあげなきゃダメだよ。だから、そんな自信ないならまず自信持てるだけの知識と技術を身につけなきゃ。瀬川くんはお兄さんのこともあってわりと多方面に他の研修医よりは繋がりを持ってるでしょ?なら、そのチャンス生かしな。本で調べるだけじゃなくてさ、実際に経験のある医師から直接聞く方がわかる事もあるだろうし、何事も相談だよ。今は実際、まだ研修医で未熟なんだからもっと色んな人に意見聞こう。俺でも、お兄さんでも、ツテがなかったら俺らが仲介してもいい。それでどんどん色んなこと吸収して学んでいきな。……でも、それ患者さんの前で見せちゃダメだよ。俺らはプロなんだから。難しいかもしれないけど、それを乗り越えてみんな良い医師になっていくんだよ。」

清水先生は厳しいことを言うって言ってたけど、先生の言葉は全て正しくてでも俺を導くような優しい言葉でもあった。

「……はい。すいません、医師として大事なところ、忘れかけてました。」

「うん。気付けばいいんだよ。瀬川くんはまだまだ伸び代あるんだし、どんどん成長していってくれたらいいよ。これからも頑張ろうね。」

ああ、やっぱり清水先生はすごいや。

人の欲しい言葉を的確にかけてくれる。

…俺もいつか……