「あ、先食べていいよ!」

もう冷めちゃってるかもしれないたこ焼き。

「うん…でもつまようじ1本しか入ってないんだよな」

高野君はそう話しながら、たこ焼きを一つ刺した。

つまようじ1本…。
ってことは、一緒に食べようとしたら…。

「俺、後でいいよ。先食べれば」
「いや、私が後でいいよ」
「ふーん…じゃあ俺の後でもいいんだな?」
「……うん…」

意識してしまって、恥ずかしい。
唇とか見ちゃった。
一気に顔が熱くなってきて、紺色の帯に差していた団扇を取り出して煽いだ。

「それいいな。俺も煽いでよ」
「青のり飛んじゃわない?」

パタパタと小さく煽いでみる。すると、高野君の黒髪が揺れた。
夜の虫の声と、少し離れて聞こえる喧騒。

「…あ」

揺れていた団扇が止まった。
高野君が、私の手首を握ったからだ。


あ……

目を閉じる暇がなかった。

ずっと憧れていた人の顔が近づいて、柔らかい唇が、ふにゅっと当たる。

「………」

高野君も目を開けたままだった。

え…?
き、キスしてくれた……

えーっ…

高野君は、次のたこ焼きにつまようじを刺している。

「た、高野君…」

呼びかけても、こっちを向いてくれない。
何で!?

私は、思い切って高野君の腕を引っ張り、言った。

「好き」
「……俺も」