仲居の仕事を初めて、2時間程立った頃、ほんの僅かの間を見つけ、私は部屋に戻って来た。
家から持って来た胃薬を飲みたかったからだ。
「真美…入っても良いか?」
え?
稀一郎さん…?
「どうぞ?」と返事をすると、彼は小さな土鍋を持って入って来た。
「お腹空いてるだろ?中華粥作ってきた」
え?
「ごめんな?気づいてやれなくて?
さっきは胃が痛くて、昼飯食べれなかったんだろ?」
「なんでそれを?」
「仲居の節子さんに聞いた」
節子さんから?
「顔色が悪いから、ひょっとして、緊張で胃が痛むんじゃないかって?」
なんで分かったんだろ…
気づかれない様にしてたんだけど…
「あの人、仲居のなかでも一番長いから、真美の様子がおかしい事見抜いたんだと思う。真美の事は、俺が一番見てるはずだったのに…
気づいてやれ無くて本当ゴメンな?」
「ううん。こうして、私の好きな中華粥作って来てくれただけで嬉しい。
有り難う」
彼の作ってくれたお粥を食べ、再び仕事へと戻った。

