「稀一郎さん、前にも話したよね?
このままじゃ良くないって?
誰が旅館を継ぐにしても、ちゃんと話し合うべきだって?
お母様もお父様もきっとそれを待ってる。
SAKURAホテルに就職した時に、気持ちは伝えてあるからって…そんなんじゃダメだと思う。
逃げてちゃダメだよ?
由緒あるこの旅館を、いい加減な気持ちで、残したらダメなんだと思う。
お客様の為にも、ここで働く全ての人達の為にも…」
彼は何も言わず、俯いていた。
「分かったら、戻って?
私は、この旅館の素晴らしいおもてなしを、少しでも習得出来る様に頑張ってみる」
「どうして…こそまで、うちの旅館にこだわる?」
私は、お茶の話を再び話して、素晴らしい旅館だから、素晴らしいおもてなしを受けたからと話した。
「真美だって、お客様が満足するサービスは、既に出来てる。お客様から頂くアンケートだって、いつも満点取ってるじゃないか?
それで十分だろ?
これ以上なにをもとめる?」
「おもてなしに十分てないよ?
稀一郎さんの座右の銘、人生万事塞翁が馬。
現状に甘んじるのではなく、いつでも向上心を持って仕事してるって言ってたじゃ無い?
私もそう思うから、この時間を頂いたの。
いつか、深田恭子さんの様なホテルマンになりたい。ううん。深田恭子さんを超えるホテルマンになりたいの」
「ちょっちょっと待て!
なんで、今、彼女の名前が出てくるんだ?」
深田恭子さんの名前を出され、焦る彼が可笑しくなる。
さては、彼女と何かあったな?
その辺は、いつか詳しく聞かせて貰うとして、今は、少しでも時間が欲しい。
「前に話してくれたでしょ?
後輩だけど、尊敬出来る人が居るって?
だからお願い。今回は私の好きな様にさせて」
彼は分かったと言って、部屋を出て行ってくれた。

