部屋にもどると、私を追う様にして彼も入って来た。

「真美!なに考えてるんだ⁉︎
今日は、挨拶だけで帰る筈だったろ?
なのになんで、仲居の仕事覚える事になるんだよ⁉︎
もともと、実家に泊まる予定もなかっただろ?」

そう。私達は挨拶が済んだら、そのまま帰る事になっていた。
近くのホテルに泊まり、明日の朝、家へと帰る事にしていたのだ。

「ホテルなら、さっきキャンセルしたから、心配無いよ?」

「そうじゃ無くて、なんで仲居の真似事まで…」

「真似事って…
理由は、さっきお母様に話した通りだよ?」

彼はどれだけ話しても納得いかないようで、胡座をかいて座り、部屋を出て行こうとしない。
そろそろ着替えをして仕事に就きたい。

「そろそろ戻ってくれる?
仲居さんのお着物、借りなきゃいけないから?」

「戻る時は君も一緒だ!」

「私の今日の部屋はここ!」

「僕がここへ来て10分になるけど、ずっと君は腕を組んでる。なぜだ?」

「……………」

「僕に怒って、気を鎮める為だろ?」

「違う!誰にも怒ってない。
強いて言えば、自分の不甲斐なさに腹を立てているのかもね?
兎に角、貴方には怒ってない!
あなたが早くここから出て行ってくれる様に、念を送っていただけ!」

「真美…」