希美子さんに連れられ、母屋へと繋がってるであろう長い廊下を渡り、話し声の聞こえる部屋のまえで、希美子さんは足を止めた。
障子越しに彼の笑い声が聞こえる。
なんで笑ってるの?
私の事心配してなかったの?
私が不安でいるかなんて、想像もしなかったの?
良く笑ってられるわる⁉︎
希美子さんが障子を開けると、部屋の中に居た彼は、私に気づき
「やっと来たか?真美、腹減ってるだろ?座って一緒に昼飯食べよう?」彼は能天気に声を掛けた。
部屋のテーブルの上には、沢山の料理が並べられ、板長である父親が作ってくれたと言う。
冗談じゃない!
こっちは、緊張で胃が痛くてお腹なんか空いてないわよ⁉︎
私は敷居をまたがず、そのまま廊下に座り挨拶をした。
「先程は、まともなご挨拶もできませんで、大変失礼いたしました。
稀一郎さんとお付き合いさせて頂いております、私(わたくし)木ノ実真美と申します。
稀一郎さんとは、同じ職場…ホテルのベルとして働いております。
それで、突然の事でご迷惑かと思いますが、今日明日の二日間だけ、仲居さん達のお仕事を見学させて頂けないでしょうか?」
「仲居の仕事を見学?」
今迄、彼と雑談し笑っていたお母さんは、一瞬にして女将の顔に戻った。
先程、仲居さんにお茶を淹れてもらい、感動した事を伝え、おもてなしの心を教えて欲しいとお願いした。
すると女将さんは、どうせなら、見学ではなく、体験してみたらどうかと提案してくれた。
「ご迷惑で無ければ、是非、宜しくお願いいたします」と、私は三つ指ついてお願いした。
「真美!なに言ってるんだ⁉︎
今日、真美を連れて来たのは、真美を家族に会わせる為で、仲居の仕事を覚えさせる為に連れて来たんじゃ無いぞ?」
私は彼の言葉を無視して、失礼しますと言って、部屋へ戻ろうとした。だが、女将であるお母さんにとめられた。
「そん前に、一つ聞いてもええかいねぇ?」
え?
なんだろう…

