「でも、律子さん…ホントは旅館に興味有ったんじゃないかな?」

「それは無いと思う。元々、彼女には付き合ってる人がいたし、多分、うちの旅館を手に入れれば、自分の会社にも大きな利益が出るって、考えてたんだと思う。
うちの旅館は、人気があるそうだから、彼女の会社を通さないと、予約出来ないって事になれば、かなりの利益が見込める筈だ。
まぁ、彼女が俺には興味ないと分かっていたから、今まで放っていたんだけど、真美に害が及ぶなんて思って無かったから、マジ参ったよ…」と言って、生田さんは何度も謝ってくれた。

付き合ってる人が居たのに、お見合いをするって…自分の会社を大きくする為なら、愛する人も捨てるって事なの…?
初めて会った時の律子さんからは、とても想像つかない。冷たい人には見えなかったし、そんな事するなんて、なんか信じられない。
でも、これが現実なんだと思うと、なんだか怖い。

「彼女も、うちの旅館が手に入らなくなるかもって焦ったんだろうけど…
弟の琢磨くんにも話つけてあるから、もう何も心配しなくて良いからね?
真美には怖い思いさせて悪かった。ホントごめんな?」

「ううん。それはもう良いけど、でも、ご実家の事どうするの?」

「俺は元々継ぐ気無いし、放っておくさ!
どうせ姉貴が継ぐ事になるだろうし!」
と、生田さんはどこか自信有り気に言った。

誰が継ぐにしても、ホントにこのままで良いんだろうか…?
ううん。絶対良くない。

「生田さん、今度の休みっていつ?」

「え?来週は火曜日が夜勤で、水曜と木曜日が連休だったと思うけど?なに?」

「じゃ、水曜日、生田さんのご実家に行こう!
私、結婚するなら生田さんのご両親に挨拶したい!」

「うちは良い。旅館の事が落ち着いてから、改めて紹介するよ?
それより真美の…あー…真美のお母さんにはご挨拶しないとな?」

母に挨拶と言っても、私の母は、今は日本にいない。お互い仕事を持ってる身で、海外へなんて行けやしない。
母もそこまで求めて居ないと思う。
日本を離れて一度も、連絡して来た事など無いのだから。娘がいた事なんて忘れてると思う。
メールで結婚したと、事後報告しておけば、十分だと思う。

しかし、彼の家族へはちゃんとしておきたい。
暖かい家族の中で育った彼と結婚するのだから…

私は、彼へ結婚する条件として、まず、生田さんのご家族に合わせて欲しいとお願いした。
最初は渋っていた彼だったが、最後には渋々承諾してくれた。