拾ったワンコが王子を連れて来た


付き合っていれば、キスもする…
確かにさっちゃんの言う通りかもしれない。

でも、幼稚園児がするキスと、大人の男女がするキスは違うでしょ?
同じ好きでも、好きの重さが違う気がする。
それに…私は…
男女の関係になるのは…やっぱり怖い。

生田さんの事は尊敬してるし、さっちゃんが言うように、多分好きだと思う。
でも、それが恋愛という名の好きなのか、私にはまだ判らない。

「私…生田さんの事好きだよ?
でも、それがどんな意味の好きなのか判んない…
だから不安で…」

どんな意味の好きなのか判らないけど…
ただ、側に居たいと思うのは確か。
でも、それだけじゃダメなんだよね…?
きっと…

「ねぇ?
あそこに居る二人見てどう思う?」

さっちゃんの示した奥の席の方を、振り返って見ると、綺麗な女性が、ワインを片手に楽しそうに男性と語らいながら食事をしていた。
だが、そこに居た二人は…

えっ!?
なんで…

楽しそうに語らいながら食事をしていたのは、生田さんと律子さんだった。

な、なんで…
二人が一緒に居るの?
なんで…
生田さんが…

体の中から、経験したことのない何かが込み上げて来る。胸がズキズキ痛み、締めつけられる。
体の中の血が逆流してる様で、苦しい。

な…なにが、君を裏切らないだ?
なにが一生愛し続けるだ?
一度だけで良いから俺を信じろ?
良く言うわよ…ホント大した誓いだわ!?

結局、私はからかわれてたんだ…
可笑しいと思ったのよ…私に一目惚れだなんて…
そんな事ある訳無いのに、信じかけた私が馬鹿だった…
きっと、私が男の子を助けたとか言う話も全て嘘。
男はみんなズルイ生き物だって、知ってたのに…

「真美…?
あの二人見て、今、どんな気持ち? 悲しい?」

悲しい…?
私にそんな感情ある訳ない。

「…なんとも思わないよ?」

「本当に?」

「…ホント…」

「じゃ、なんで泣いてるの?」

「泣いてない!私が泣く訳ない!」

グラスに入っていたワインを飲み干し、空になったグラスへ自らワインを注ぐと、さっちゃんの止めるのも聞かず、溢れてくる涙の分だけ、ワインを飲んだ。お酒が弱い事も忘れて。

悲しくないのに…なんで…なんで涙が溢れてくるの…?
ホントに悲しくなんかないのに…

「真美、大丈夫?」

「らいりょうぶ…られぇ、らっりゃん、ばいん…らいよ…れぇ、らっりゃん…」

愛してるって言ったのに…
一生愛し続けるって言ったのに…

「ぶそつき…」

「真美」

ん?
誰かが呼んでる。
でも、さっちゃんの声と違う。
少し低くいけど…
でも、優しいくて私には心地良い声…

「真美帰ろう?」

帰らない…
生田さんの居ない家なんて…
帰らない。
また…あの家に一人なんて…嫌。
辛すぎる。