家主を失っていた家に、私は十数年振りに帰って来た。

この春から勤務先が異動となり、ずっと留守にしていた実家に戻って来たのだ。
休みの日には時々、風を入れる為に帰って来ては居たが、あの桜の木をゆっくり見るのは何年ぶりだろう。

庭に植えられた桜の木が、いくつもの蕾をつけ春を知らせようとしている。
あの桜の木は私が生まれた年に、植えられたと聞いてる。
毎年、満開になったあの桜を見ながら、この縁側で母が作ったご馳走を家族で食べていた。

いつからだろう…
お花見しなくなったのは…

幼稚園、小学校、そして中学校へ上がった時には、必ずあの桜と一緒に家族写真を撮っていた。
あの頃の私達は間違いなく家族だった。

いつから…
ばらばらになってしまったのだろう…

両親は既に家を出て、それぞれの道を歩み出している。
私は今まで会社の寮に居たが、勤務先が異動となり、実家(いえ)の近くになった為、寮を出てこの家から通勤する事にした。

昔は、この家の庭も、母自慢の沢山の花が咲き誇り笑い声が絶えなかった家だが、今は桜の木1本だけが残り、雑草の住処となってしまってる庭。
あの桜は私そのものだ。

誰も居なくなったこの家で、一人寂しく花を咲かせても、誰にも惜しまれる事も無く、花弁を散らしていた。
私も今日からこの家で、あの桜と同じ一人で生きていく。