「このドックフードじゃ、気に入らなかった?」

心配はしても、なにもしない私と違って、生田さんはワンちゃんの側に腰を落とした。

「ワンコロ? お座り、お手、おかわり、よし食って良いぞ!」
生田さんがそう言うと、ワンちゃんは美味しそうに食べ始めたのだ。

「なんで…?」

「……飼い主に…躾けられてるんじゃないかな?って思っただけだよ?」と生田さんは言った。

「そう…なんだ? 君は本当にお利口さんだね?
食べたら、歯磨きもしようね?」

歯磨きと言っても、やり方は説明書に書いてあるが…正直怖い。
懐こい犬(こ)と言えど、犬の口の中に指を入れるのだ。

「生田さん…歯磨きやった事有ります…?」

「歯磨きガム買って来てたろ?
それで、良いんじゃないかな?」

本当にそれで良いの?
飼い主さんは、どうしてたのかな?

「でも、折角買ってもらったんだ、ワンコロ、歯磨くか?」

私が悩んでいる事が分かったのか、生田さんはワンちゃんにおいでと言う。
すると、ワンちゃんは生田さんの元で仰向けになり口を開けた。

凄い…
ワンちゃんも慣れてる。
やっぱり、この犬(こ)捨てられたんじゃない。
ちゃんと躾もとされてるし、きっと可愛がってもらってたと思う。
絶対、こんなにお利口さんな犬(こ)捨てたりしない。

その時から、歯磨きだけは生田さんにお願いする事にした。