着替えを済ませて下に降りて行くと、コーヒーの香りと、甘い良い匂いがした。
「今朝はフレンチトーストにしたけど、良かったかな?」
「え?…あ、はい。
ありがとうございます」
「あの…昨夜の事なんですけど…」
「昨夜はホント有難うな?
あのままだったら、俺死んでたよな?
ホント助かった。服まで洗濯してもらって…住むとこまで与えて貰って?
ホント助かった!」
与えた訳じゃない。
「その事なんですけど、出来るだけ早く出て行って頂けると有難いです」
「…努力します。
で、今日はこれからどうする?」
え? 今日…?
「あの…生田さん仕事は?」
「あー休み!」
そう。 休みなんだ…?
「私は、この子のモノを買いに行こうと思ってます。お腹も空いてると思うし?」
昨夜はミルクしか飲ませて無いから、きっとお腹空いてると思う。
「あーワンコロには、さっき冷蔵庫にあった野菜を、茹でて食べさせた」
「そう。ご飯貰ったんだ? 良かったね?」
私の食事が終わるのを、おとなしく私の足元で待っているワンちゃんの頭を撫でてやる。
「でも、野菜だけじゃ足りないよね?
私だけ美味しいもの食べてゴメンね? 後で美味しそうなドックフード買って来るからね?」
私の言葉が判るのか、尻尾を振って喜んでる。
「じゃ、俺も付き合うよ?」
いや、それは無理。
もし、二人で歩いてる所をホテルの関係者に見られでもしたら…
絶対それは避けたい。
「折角ですが、外では別行動でお願いします」
「外では…?」
「ここ、仕事場(ホテル)からそんなに離れてないので、誰に見られるか判らないし、変に誤解されるのも、お互いの為にならないと思うんです」
うちの会社は社内恋愛禁止だ。
付き合ってなくても、休みの日に一緒に街を歩いて居れば誤解される。相手が相手だけに誤解は避けたい。
そんな事で、折角手に入れた今の仕事を失いたく無い。
私は大学卒業と同時に、別のホテルへ就職した。
だが、就職してすぐ上司のパワハラにあい、今のSAKURAホテルに転職したのだ。
「なるほどね?
分かった、俺は自分の着替えなんかを買いに行く。あ、今日の夕飯の買い物は俺がしてくるから?
何か欲しいモノや、食べたい物が有れば連絡して?」
今まで、生田さんには連絡先を、何度と交換しようと言われていたが、ずっと断り続けていた。
だが、暫くとはいえ一緒に暮らすとなると、連絡先の交換は、しておくべきだろう。
何かあった時の為にと、私達はラインのIDの交換をした。

