手を差し伸べ抱き抱えようとすると、潤んだ瞳で何かを訴えようとしながらも、なぜか私から離れていく。
え?
「ワンちゃん、何処行くの?」
逃げた犬を追いかけると、細い路地に入って行った。
え? どうしよう…
このままにして帰って良いの?
「ワンちゃん? 私帰っちゃうよ?」
(ワンワン! クゥ〜ン…)
路地の奥へ入った犬は、まるで助けを呼ぶ様な鳴きかたをした。
え? なに?
気になって、恐る恐る路地へ入って見ると、人が倒れていた。
犬を抱き上げ、倒れている人へ私は声をかける。
「だっ大丈夫ですか⁉︎ 」
え!?
そこに居たのは、ずぶ濡れになったフロントマネージャーの生田さんだった。
「生田さん!? どうしたんですか⁉︎」
何度声を掛けても、何も応えない生田さんが心配になる。
「私です! 木ノ実です! 生田さん判りますか?」
どうしよう…
救急車呼んだ方が良いのかな?
「生田さん、今、救急車呼びますね?」
「大…丈夫…ちょっと、さ…寒い…だけ」
寒い…?
そりゃーこれだけ濡れてれば寒いだろう。
このコ(犬)も早く暖めてあげたい。
「生田さん、私の家まで歩けますか?」
肩を貸しなんとか立たせると、私の家まで生田さんを運んだ。
ワンコの方も、離れる事なく私達について来た。
「生田さん、タオル取って来るのでちょっと待ってて下さい!」
彼を玄関に入れると、玄関の上り口に座らせる。
「ワンちゃん、君もここで待っててね?」
急ぎお風呂のスイッチを入れ、私はタオルを持って生田さんの元へ向った。
「生田さん、今お風呂沸かしてますからね!」
「さ…寒い…」
唇の色が紫色に変わって来てる。
もう待ってられない!
「生田さん、もう一度立って下さい!」
お風呂が沸く迄、シャワーで身体を温めた方が良い。
「ワンちゃん、君もおいで!」

