「柊真!!」

「うるせぇーな!
趣もなにもあったもんじゃない。
恭子、さっさと本題に入れ!」

本題?

「そうね?
狼に変身する前に、失礼しないとね?」と言って、恭子さんは微笑んだ。

本題って何だろう…?
お月見する為に来たんじゃないの?
何か話しがあって、この場を作ったって事?

「生田さん
あなた達、私からのプレゼント受け取ったわよね?
頂いたものにはお礼するのが筋よね?」

え?

「実は、生田さんにお願いがあるの?」と恭子さんは稀一郎さんに言う。

恭子さんのお願いは、お正月の三が日の間、着物姿でホテルに出て欲しいと言う。

あっ、前に恭子さんが言ってた。
稀一郎さんには着物が似合うって

「はぁ!?
俺はもう柊真の秘書であって、現場に出るのはおかしいだろ!?」

「だから、三が日の間だけ、着物姿でお客様にお抹茶を点てて欲しいの?」

お茶を点てる…?
稀一郎さんが?

「な、なんで俺が!?」

「生田さん、茶道久坂流の師範のお免状持ってるらしいじゃない?」

稀一郎さんが茶道の先生…師範のお免状を持ってる?

「俺に客寄せパンダになれと?
お茶なら柊真だって点てれるだろ?」

「勿論、柊真さんにもエグゼクティブフロアでお願いするわよ?
私は、使えるものは夫だろうと親であろうと使えるものは使うわよ?
でも、流石に桜花崎の両親には頼めないけど?」

「恭子さん、君は随分変わったね?」

「立場が変われば、人は変わるわ?
経営者として当然の事でしょ?」

「はぁ…流石、柊真が惚れただけあるな?
わかった。引き受けるよ!
但し、真美は休みにさせると約束してくれ?」

えっ!
お正月の三が日は、バトラーにとって一番忙しい時期なのにお休みなんて貰えない。

「でも、稀一郎さん」

稀一郎さんの出した交換条件を、恭子さんは仕方ないと受け入れた。

えっー! 良いの?
ホテルに勤めて、お正月に休むなんて初めて…
いいの?
ベルの時でさえ休めなかったのに
バトラーが休めるの?

稀一郎さんが承諾すると、桜花崎夫妻は話しは終わったと言って、さっさと帰って行った。

えっー
ホントに、この話に来ただけだったの?
それにしても、恭子さんは怖い人だ
絶対あの人に逆らわない様にしよう。

「稀一郎さん、バトラーがお正月休むなんて不味くないかな?」

「休まないと、真美まで利用される。
これ以上、真美の着物姿、誰にも見せられない!」

「え?」

「どれだけ、君の着物姿が色っぽいか知らないだろ?
襟や裾から覗く白い肌は、美しいと言うよりエロ過ぎる」

「そんな事…」

「絶対ダメ!
こんなエロい真美を世間に出したらダメ!
僕はおかしくなるよ?
真美のエロさは僕のもの!」

稀一郎さんは微笑むと、おいでと言って私を膝の上に乗せると、盃にお酒を注ぎ月を浮かべると私の口元へと運んだ。

「どう?」

「スッキリした甘さだけど、なんか…カッーと体が熱くなる…」

「もっと熱くなるよ」と言って、身八つ口《脇》から手を差し込んできた。

「稀一郎さん…エッチ」

「僕がエッチなのは嫌?」

ううん。
どんなあなたでも大好き!

首を振ると、稀一郎さんは帯を解き始めた。

恭子さんは帰り際、私にこう囁いた。

「出来る女は嫉妬するより、嫉妬させるものよ?
頑張ってね?」と微笑した。