これ以上、なにを知らされる?

私の言葉を遮り、不安に思う私へ彼女から向けられた言葉は、私の全く予想もしなかった言葉だった。

「ねぇ、真美さんバトラーとして働いてみるきない?」

「え?」

「その気が有るなら、私が鍛えてあげるけど?
勿論、生田さんにも私から話はする」

突然の彼女からの申し出に、頭の中がパニック状態になっていた。

以前から、私はバトラーに興味があったが、バトラーは、信頼と経験がモノを言う。
ハウスキーパーなら兎も角、ベルである私には就けないと諦めていた。
だが、稀一郎さんの実家である旅館の仲居さん達をみて、更にバトラーに就きたいと強く思う様になっていたのだ。

私がバトラー!?

願っても無いチャンスが訪れたのだ。
さっきまで、彼と恭子さんの仲を疑っていたのに、彼女の一言で、二人に対する疑いすら忘れてしまっていた。そして、恭子さんから頂いたチャンスを、二つ返事で私は受けていた。

「私、恭子さんの噂聞いていて、いつか恭子さんみたいなホテルマンになりたいって思ってたんです!
期待してて下さい!
私、きっと良いバトラーになりますから!」

「期待はしない」

え?
チャンスをくれると言いながら、期待はしないって…どう言う事…?
じゃなんで、私にバトラーの話するの?

「私、真美さんは良いバトラーになるって信じてるの」

え?
「信じてる?」

「そう。私は期待はしないよ?
真美さんの仕事振りを見てて、良いバトラーになるって信じてるからバトラーに抜擢したのよ?」

期待はしないけど、信じてる…

「私ねぇ、以前チームを任せて貰う様になって、新人研修をも任せられて思ったの。
期待しても、みんながみんな私の期待に応えてくれる訳じゃない。
その時に、私が自分に言い聞かせてた言葉なの。
期待して、期待と違う結果になった時、がっかりするじゃない?
だから、信じるようにしたのよ?
この子達なら、きっと出来るって!
信じて、結果が思わしくなかった時は、信じた自分の失敗で、自分の責任。
そう思ったら、がっかりなんてしてられないでしょ?
それに、信じて教えてあげると、心が通じるものがあるみたいで、相手も応えてくれるの」

信じる…
「良い言葉ですね?」

「でしょ?
だから、生田さんの事も信じてあげてね?
散々、真美さんを悩ませた私が言うのもおかしいけど?」

「え?
もしかして気づいてました?
私が不安になってた事?」

「うん。
もしかして私が原因かなって?
少しばかり意地悪しちゃったけど、疑われる様な事は何もないわよ?
でもね?
何時迄も我慢してると、壊れちゃうわよ?
言いたい事は言って、聞きたい事は聞かないと?
忙しいのはお互い様よ?
バトラーになるなら、真美さんも今まで以上に忙しくなるから、覚悟してね?」