桜花崎さんは、今迄ゼネラルマネージャーとしてホテル部門全てを担っていたが、本人の希望で席は本社お膝元である当SAKURAホテルになっていて、部屋も当ホテルに用意されていた。と、言っても、ほとんど部屋にいる事はなく、毎日忙しく飛び回っていた。

桜花崎さんは、現在専務いう肩書きになっているが、最近体調のおもわしくない総帥の代行として、専務で有る桜花崎さんが、グループ会社全てを総指揮しているらしく、2、3年のうちには名実共に総帥になると聞いている。
その時の為にも、株主や役員達に有無を言わせないだけの実績や地盤固も等閑にはできない様だ。

桜花崎さんは取引先への挨拶回りや会食、財界人のパーティーへの参加と分刻みのスケジュールで仕事をこなしてるらしい。
勿論、それら全てに秘書である稀一郎さんも同行しており、帰ってくるのは毎晩午前様で、こちらが起きて待って無ければ、彼と顔を合わせる事も出来ない。
顔を合わせても、何を話すでもなく “ ただいま ” の軽いキスひとつすると、彼は自分の部屋へと篭ってしまう。

以前に比べれば、ただいまのキスがある分良くなったのかもしれないが、それでも、朝私が起きた時には、既に彼は仕事に出かけて居ないのは変わらない。
彼が秘書になれば、今までの様にいかないとは知っていたし、すれ違いになるのは分かっていた。

でも…淋しい
私は彼の妻で、彼は私の夫なのに…
彼と会話らしい会話をしたのは
いつだろう…

結婚を決めた当初は、二階の私のシングルベットで一緒に寝ていて、仕事する時だけ稀一郎さんは、自分の部屋である和室を使っていた。
ワンコロの事もありダブルベットへの買い替えや、部屋のリノベーションも考えたりもしたけど、今は必要ないとさえ思い始めている。

リノベーションして、ダブルベットへ変えても…
彼が居なくては…
広くなった部屋で、大きくなったベットに一人で寝るなんて寂しすぎる。

「ワンコロ、今夜も稀一郎さん遅いのかな?
君は先にベット行ってて良いよ?」

好きで結婚したのに…
一年足らずで既に家庭内別居状態なんて…

このままだと、何の為に結婚したのかわからない。
勿論、彼の事は応援したいし、私が彼を愛してるのは今も変わらない。
でも、彼も同じ気持ちでいてくれるのか、今の私にはわからなくなっていた。