なんとか稀一郎さんから逃げれないかと考えていたが、私の考えなどお見通しらしく、休憩に入る間際、チーフから声が掛かった。

「休憩に入る前に、生田マネージャーの処にいってくれる?」

「え?」

「生田マネージャーと結婚したそうだね?
おめでとう!」

「え? あの…」

「出勤して早々、報告うけたよ。
その事で、君と相談したいそうだよ?
いつまでも皆んなに、隠しておく事も出来ないだろうからね?」

私達の事を公表するの…?
深田さんが帰って来たら、別れる事になるかもしれないのに…
自分は、桜花崎さんの秘書で本社付きになるから、関係無い?
現場でどう思われようと、皆んなからどんな目で見られようと…

チーフにお祝いの言葉を貰ったのに、ひょっとしたら今日明日にも、気を遣わせる事になるかもしれない。

事務所に入り、事務所奥にある、彼の部屋のドアをノックする。

(トントン)

中からの返事は無く、もう一度ノックしようと思った矢先、中からドアが開いた。
ドアを開けてくれたのは桜花崎さんだった。

え?

「あの…呼ばれてると聞いたのですが…出直した方が良いでしょうか?」

「いや、入って良いよ?
ってか、入って貰わないと、俺の命が無くなる」

命が無くなる?
何が起きてるの?

失礼しますと入ると、いきなり桜花崎さんは頭を下げ、私に許しを求めた。
側に居る稀一郎さんは腕を組み、仁王立ちしている。

え?

「本当に申し訳ない」

「あの…なんの事でしょう?」

桜花崎さんは、昨夜話した、プロポーズの事を何度も謝ってくれた。

「ここまで、真美さんが悩むとは思わなかったんだ。
稀一郎からは、惚気話ばかり聞かされてたし、稀一郎が真美さんにベタ惚れなのは、真美さんも分かってると思ってたから、少しばかり稀一郎を困らせてやるつもりだったんだけど…
まさか真美さんが、眠れなくなる程気にするとは…」

私が分かってる?
え? 昨夜、桜花崎さんが、私なら分かるって言ったのは…

「本当に申し訳ない」

「真美…
彼女にプロポーズしたのは間違いないけど、真美と出会う前の事だから…」

「でも…話して欲しかった…
稀一郎さんの口から…」