結局私は、生田さんの策略にまんまとはまってしまって、一睡も出来ず朝を迎えた。
朝、洗面所の鏡の中には、クマの出来た酷い顔の私が居た。

「ゲッ! なにこの顔⁉︎ どうすんの!」

ブツブツ言いながら、メイク道具を並べたところで、玄関のチャイムが鳴った。

「もぅ! この忙しい時に誰よ!?」

誰だと思っていると、ドアホンの画面には、生田さんの姿が映っていた。

なんで…?

「はい…」

『おはよう! 朝食一緒にどう?』

は?
あの人…夜勤明けじゃないの?
なんでうちに来るの?

『もしもーし! ねぇ、開けてくれる?』

はぁ?
朝から冗談じゃない!

「お断りします。出勤の準備で忙しいので、どうぞお引き取りください!」

インターホンを切ると、再びチャイムが鳴り、画面にはホテルのバンケットのパンの包み袋が映されていた。

『朝飯、まだでしょ?』

「・・・・・」

仕方なく玄関を開けると、彼は楽しいそうに入ってきた。

「Coffee or tea?」

「え?」

「コーヒーか紅茶どっちにする?」

どっちって…

「私、まだ出勤準備出来てないので、忙しいんですけど?」

「うん。知ってるよ? そのクマ酷いね?
やっぱり、俺の事考えて寝れなかったみたいだね?」

「・・・・・」

彼は送って行くと言って、キッチンへと入ってヤカンでお湯を沸かし始めた。

「ちょっと、何してるんですか⁉︎」

「お湯沸かしてる?」

「そうじゃなくて!
他人(ひと)の家で何してるんですか!?」

「君って、一人暮らし?」

「それが、どうだと言うんですか?」

「そっか? 一人暮らし…か?
ほら、早く支度しなよ? 時間無くなるよ?」

そんな事言われなくとも、わかってます!

全く帰る様子のない生田さんを諦め、私はため息をついて出勤する準備を始めた。
そして、準備が終わる頃には、家全体にコーヒーの良い香りが漂っていた。
テーブルには、彼が持って来てくれたクロワッサンと、サラダとスクランブルエッグが作って置かれていた。