すぐ向かいに停まっている車から、拡樹が降りてくる。仕事帰りだというのに、疲れの色を一切見せないあたりは、さすが大手博物館の館長といったところだろうか。

「どうぞ、お乗りください」

丁寧なエスコートに、どこかの令嬢にでもなった気分になり、くすりと笑う。

「どこに行くんですか?」

「着いてからのお楽しみです」

どこか楽しそうに隠され、やはり教えてくれない。目的地を秘密にされたまま、車は走り出した。

到着したのは街から少し外れた場所にある港。

「ここですか?」

「海が好きだって言ってたから。
でも今日は、車から眺めるんじゃなくて、あっちです」

手で示された方には、大きなクルーザーが停まっている。

「船!?」

「はい。船からの景色はまた格別だと思います。行きましょう」

手を引かれ、薄暗い夜の港を船までエスコートされる。外から見てもその大きさに圧倒されていた恵巳だったが、乗船するとその豪華さは圧巻だった。
金色の柱に、大理石の床。敷かれてある絨毯は土足で上がることをためらってしまうほど柔らかい。