「こうしてドライブするのも何回目ですかね?拡樹さんは運転好きなんですか?」

「運転も、車も好きなんです。子どものころから車が好きで、おもちゃの車に乗って、おもちゃの刀を腰にさして遊んでました」

おもちゃの車におもちゃの刀。きっと大きな声をあげて元気に走り回っていたのだろう。そんな小さな拡樹を想像して、思わずくすりと笑いがこぼれる。

「笑わないでくださいよ。あの頃はそれが本気で世界を守ろうと思ってやってたんですから」

「可愛いじゃないですか」

思い出話をされればされるほど面白くて可愛らしくて、笑いが止まらなくなる。

「もー、さっきから笑ってばっかりですよ」

いつの間にか、笑顔が溢れる賑やかな空間に変わる。左側に海を望む道を、昔話に花を咲かせながら進んでいく。

小学生から始まり、中学校、高校、そして今に至るまで、どういう遊びが好きだったのか、部活は何をしていたのか、働き出して大変だったことは何なのか、そんな懐かしい思い出話は尽きることはなかった。

その帰り道、案の定助手席で寝息を立てている恵巳。家の前に車が停まったというのに、全く起きる気配がない。

「無防備すぎます」

顔にかかった前髪を、拡樹の手がすくう。愛おしそう寝顔を見つめるその瞳は、本物の婚約者のよう。唇に吸い寄せられるように、その距離が縮めていく拡樹。だが、あと数センチのところで思いとどまり、座り直す。

「恵巳さん、着きましたよ」

男としての欲求と理性の狭間で、今回も、嫌われたくない一心で、欲求を押し殺した。いつものように恵巳を起こし、その笑顔を見送るのであった。