「前提として、この婚約はどうなのかっていうのはずっと思ってる。なのに最近温泉に行ったりドライブに行ったり。このままだと、婚約を白紙に戻すどころか、流れで結婚しますなんてことになりかねない。緊急事態よ!」

「えぇ?恵巳、拡樹君との婚約を白紙に戻したいの?あんなに楽しそうにしてるのに?てっきりこのまま結婚に向けて付き合っていくのかと思ってたわ。この間だってドライブから帰ってきてニコニコしてたじゃないの。ね、お父さん」

心底意外だというように母は目を丸くした。急に話を振られた父は、拗ねたままでここぞとばかりに反抗した。

「本当は拡樹君のこと好きなのに捻くれてるだけなんだろ!いつまでたっても手のかかる娘なんだから。結婚相手くらい自分で見つけてくればいいものを」

「はぁ!?元はと言えばお父さんのせいでしょ!」

勢いよく掴みかかる恵巳に、暴力反対と情けない声で助けを求めているが、呆気なく締め上げられている。

しばらくは母と世間話をしながら様子を見ていた蓮は、冷やかすように恵巳を煽った。

「婚約を破談にさせたきゃその勢いであの男もぶっ飛ばせ。お前の腕力なら一発だろ。さすがに暴力的な嫁は願い下げだって、向こうから断ってくれるさ。どうせあいつの前では猫被ってんだろ」

一瞬父の胸倉をつかむ手を緩めたが、すぐに元に戻った。

「ほら、やまやんはこういうことしか言わないんだって。どいつもこいつも…!あー、ここで話した私が馬鹿だった」