夕方、交流館の前に1台の真っ黒な高級車が停まった。

車と同じように深い黒色のスーツに身を包み、厳しい表情で館内に入ってきた中年の男性。
部下らしき男を2人ほど連れ、どこから見ても客ではなさそうだった。

「小関さん。ちょっとよろしいでしょうか」

低く渋い声で館長である父を呼んだのは、宮園泰造という男。

日本歴史博物館をはじめ、いくつもの博物館を束ねている取締役であり、有名な歴史研究者でもある。歴史上の人物や、その時代の庶民の暮らしなど、幅広い知識を有し、テレビでも活躍している。愛想笑いなどは一切せず、自分にも他人にも厳しい人物として知られている。

そんな厳格な彼は、目を付けた博物館は必ず手に入れてきている。博物館や資料館の買収はもちろん、どんなに小さな施設に保管されている貴重な資料や美術品でもその手中に収め、研究対象としているのだ。

研究は世の為にはなっているものの、その血も涙もないやり方に、断腸の思いでその品を手放した人は数知れない。

そんな彼が今回目を付けたのが、平安和歌交流館だった。父からすると、目の敵である泰造。簡単に話に耳を傾けるわけにはかなかった。