拡樹はレジで会計を済ませているところだが、優柔不断の恵巳はなかなか決めきれずに、店の中と外を行ったり来たりしていた。

「やっぱり、お土産といえば温泉饅頭かな」

そう言って、外で売っている温泉饅頭を眺める。買って行こうかどうしようか腕を組んでじっくり悩んでいると、後ろから声をかけられた。その声は、とても馴染みのあるものだった。

「やまやん!なんでいんの?」

仕事帰りに顔を出す時とは違って、皺一つないスーツに、どこか緊張感のある顔つきで蓮がそこに立っていた。

「俺もびっくりしたー。
仕事でこっちに来てたんだよ。めぐは?観光?」

「あー…、うん。たまにはいいかな、なんて」

ここで、こんなところで蓮が拡樹と遭遇してしまったら面倒なことになりかねないと思った恵巳は、拡樹の存在を隠すことを決めた。必死で笑顔を取り繕う。

「誰と来てんの?友達?」

「そ、そうそう、友達。
あー、やまやんにもお土産買って行こうかなって思ってたんだよね。
だから、ほら、仕事行きなよ」

一秒でも早く蓮にはこの場から立ち去ってもらいたかった。そうしなければ、そろそろ拡樹が戻ってきそうで恵巳は気が気ではないのだ。