「そんなこと言うはずないじゃないですか!」

「言ってましたよ。
強引に布団の中に連れ込まれたんで、僕は大人しく一緒に寝ることにしました」

まさかと思って首を振る恵巳だったが、徐々にクリアになってきたその頭で考える。言われてみれば、腕を引いた感覚が、掌に残っている気がしなくもなかった。

「なんか、そんな夢を見た気もする…」

「現実だったんですよ」

「やだ、忘れたい」

「僕は一生忘れません」

満足そうに笑顔を浮かべる拡樹とは対照的に、やらかしてしまった感満載の朝となった恵巳は、畳の上で小さくうずくまるのだった。

「嫌だ。絶対忘れるんだから」

ぶうぶつと呟いて、必死に記憶から抹消しようとする。だが、自分から拡樹に抱き着いた記憶までもよみがえってきてしまった。
外から見るよりも、意外としっかり筋肉がついた背中にドキッとしたのを思い出す。

「はぁ、最悪だ…」

それからしばらく、拡樹の顔をまともに見ることなどできなかった。