そんな娘を見つけた父は、どこか気まずそうに口を開いた。

「恵巳。その…、今、拡樹君から連絡があったんだが、緊急の会議が入ったから、今日会えなくなったそうだ」

一瞬空気が止まる。

「拡樹君も、すごく残念そうにしてたぞ。何度も電話越しで謝っていた。だから、許してやってくれ」

「怒ってないし。じゃ、今日もいつも通り仕事する」

それだけ言うと、一度部屋に戻って外出スタイルから、従業員スタイルに戻る。髪を結び、動きやすいスニーカーを履く。

「そんなにがっかりしないで。忙しい人だから仕方ないわよ」

「だから、がっかりもしてないよ」

がっかりなんてするはずないじゃない、ともう一度呟いた。

会って聞きたいことがあったため、また次回に持つ越されたことを残念には思っていた。だが、正直、ほっとした部分もあった。所詮は人が決めた結婚。現在恋人がいなくても、良い出会いだったとしても、浮かれられるほど気楽には思えなかった。

元は断りの連絡を入れていたのだから、これでよかったんだと何度も頷いた。