「どれだけ、悩まされたと思ってるんですか。何にも手につかなくなるし、冷たくされた記憶は消えないし。だから、怖いんですよ、また好きになるのが…」

「ここに来たら、僕の好きなフジの花言葉を教えるという約束でしたね。約束を果たしましょう」


「え?」

その嘘のない瞳に、逆に後ろめたくなった。拡樹のことを信じきれなかった弱さが、浮き彫りになっていた。今度こそ、全力で信じたいと思った。信じても良い人だと心が叫んでいた。

「あなたの愛を熱望する。

それが、フランスで言われているフジの花言葉です。婚約を解消された今だからそ伝えたいことがあります。

恵巳さん、僕と結婚してもらえませんか?」

膝まづいた拡樹が開いた小箱の中には、眩しいくらいの光り放つ指輪。じっと見上げる拡樹が愛おしくて、涙がこぼれそうになるのをこらえて大きく頷いた。

「私には、拡樹さん以外いるはずないんです。私の心を攫って行ったんですから」

ふっと優しく微笑んだ拡樹につられて、温かい気持ちに視界がにじむ。拡樹に添えられた左手はそっと導かれ、薬指に指輪を通される。ライトに照らされ、花にも星にも劣らない輝きが2人を包みこむ。