「高宮さんと結婚するからって、私を遠ざけたのは拡樹さんの方じゃないですか」

もう涙を止めることなどできなかった。遠ざけたいのに、離れないで欲しい。そんなぐちゃぐちゃな心を、抱えきれないでいたのだ。

「あなたには、山田さんがいると思ったから意地を張ってしまったんです。

恵巳さんには既に他の相手がいるんだから、このまま他の女性と結婚してしまえば、忘れられると思った僕は、とても愚かでした。

常に恵巳さんのことが頭に浮かんで離れなくて、高宮さんといると、恵巳さんと行ったクルージングのことをいつも思い出してしまう。

何を見ても、あなたとの思い出に結びつけてしまう。僕には、恵巳さんしかいないんです」

ついに拡樹が恵巳のそばまで追いついた。

自分のことなど思い出されることもなく、結婚の準備を進めているものだと思っていた恵巳は、自分と同じように思い悩んで前に進めていない拡樹の言葉に、ぎゅっと胸が締め付けられるのを感じた。

「でも…」

「恵巳さんは、僕のことはもうどうでもよくなってしまいましたか?」

それまで頑なに動こうとしなかった恵巳が、目線を上げて拡樹と目を合わせる。