定例会が終わると、誰とも会話をすることなく外に出た。そのまま家にも交流館にも戻ることはなく、恵巳は1人、とある場所に来ていた。

今が見ごろの花々が咲き誇る植物園。風に漂う花の香りに導かれるように園の奥に進んでいく。
人の気配は全くなく、花が風に揺れ、時間がゆっくりと流れていく。遠くでは夕日が山の奥に沈んでいき、一番星が白く光った。

たくさんの種類の花が咲いている中で、恵巳はとある花を探していた。何度も見たことがあり、かつての歌人も見ていたであろう昔からある花。その花を、探してひたすら歩く。

すると、一際目を引く屋根型の花トンネル。綺麗な紫の色のフジの長い花が頭上から降り注ぎ、厳かに揺れている。その光景はまさに圧巻だった。

「あった…」

トンネルの入り口にはフジの花の説明があった。そこには、5月に旬を迎えることや、平安時代の貴族にも愛されてきたことなどが書かれている。さらに続くのは花言葉。それらを順番に読み上げた。

「優しさ、歓迎…」

華麗に咲き誇る花々を目に焼き付けながら、恵巳は忘れたくても忘れられない記憶を思い出していた。