「あぁ、そうだ。
君との婚約が決まったときから拡樹にはその任を与えていたのだが、最後まで使い物にならなかった。

もともとは君から情報を聞き出す手はずだったが、蔵の保管品については何も知らいないそうだな。だから標的を父親の方にシフトさせた。

だがもう拡樹には手を引かせる。君や父親を取り込むところまでは上手くいったようだが、品物を手にすることができなかったんだからな。

また別のやり方を考えるとしよう」

標的だの取り込んだだの、今すぐにでも耳をふさぎたい言葉が並んだ。

拡樹が陰で動いていた。

すべて宮園泰造の企みの下で事が進んでいた。かなりショックを受けているのに、不思議と頭では理解できていた。追いついていないのは、感情だけだった。なぜ冷静でいられるんだろう。そんなことを考えられるほど、どこか他人事のように俯瞰している妙な気分だった。

拡樹と出会ってから今までのことが走馬灯にように頭に流れていく。婚約の話を聞いたとき、恵巳はまず何か裏があるのではないかと疑った。あの宮園泰造ことだ。何て先までも読んで婚約の話を持ってきたに違いないと睨んでいた。それが、拡樹と関わるうちにその疑念もどこかに消えていた。

「いやでも、拡樹さんがそんなことするはず…」

ないと言い切りたいが、できなかった。
なぜ言葉が出ないのか。そこまでの理解は到底できなかった。