「あ…!恋の歌を取り上げて、ひとりひとりにあった歌を見つけてもらうっていうのはどうでしょう?恋のように身近なテーマだと、和歌に対して抱いている敷居の高さも少しはなくなるのではないでしょうか?」

「おぉ、いいんじゃないでしょうか?
恵巳さんが話してくれたように、物語のような解説があると、もっと面白くなりそうですし」

拡樹にそういわれると、自信が沸いてきた。先ほどまで何も浮かばずに泥沼の中にいたというのに、今では企画にむけて走り出したくて仕方ない。

「本当ですか!?そうと決まれば、さっそく企画にむけて動き出さなくちゃ!

拡樹さん、ありがとうございました!もう少し頑張ってみます!」

一気に元気を取り戻した恵巳は、拡樹をポンッと叩いて倉庫へと走っていった。

「特に何もしていませんよ」

ぽつんと取り残された拡樹は、薄暗い館内を少し歩き、和歌を一つずつ見て回る。

恵巳が一番好きだといった和歌を見つめては、何かを深く考え込むように視線を落とした。