「顔見知り程度の相手に恋い焦がれて、眠ることも食べることもままならないというのに、その気持ちを正直に話すことはできないでいるんです。それはきっと、人に言えないどころか、自分にすらも嘘をついて日々が過ぎていく。

認めてしまうと、本当にその相手にことを待ってしまいそうになる。そんなことは怖くてできないから、誰に聞かれても、恋なんてしていないと答えてしまうという、そんな素直になれない女性の歌です」

「まるで恵巳さんのようですね」

真剣な感想に、一度咳ばらいをして流す。

「自分とリンクする歌は、自然と好きになるものです。中でも恋の歌はとても多いですから、ひとつくらいは自分の恋愛経験と重なったり、今の恋愛の背中を押してくれるような歌があると思います。

昔の人は、今ほど自由に恋ができない世の中で、自由すぎるほど心で恋していたようですからね。一途な恋も不倫も、歌の中ではすべて儚い物語です」

そんなことを話していると、頭の中に一筋の光が差し込んだ。急に振ってきたひらめきに、手をぱちんと叩いた。