「向葵(あおい)」



空を見上げてぼーっとしていると、突然誰かから声をかけられる。



声の主を確認する前に、私は誰が声をかけてきたのかわかった。




「……悠真(ゆうま)」



屋上の出入口に目を移すと、見慣れた男子がこっちに向かって歩いてきているのが見えた。




「さっきは災難だったな」



「ほんとだよ。機嫌が悪いからって私に当たらないでほしい」



「名前まで言われてたもんな。新橋さんって」



彼は肩を震わせて笑う。



いや、今は笑うところじゃないし!



どこにもおもしろい要素なかったんだけど!



彼は笑いすぎて涙が出たのか、かけていたメガネを取って目元を拭った。



私と同じ、地味な格好をしている彼。



私たちがそんな格好をしているのには、深い理由があるんだ。