昨日、実際には10年前にはなるけれど
景都とキスを交わした桜の木の前に立っていた。

昨日のことだけど
実際は10年前のことになるんだな・・。

もうすこし・・・
景都と高校生活、送りたかった。

もうすこし
景都と同じ時間を過ごしたかった。

ここに戻ってきても
時間は残り少ない・・・。


「・・いと・・けいと」

たまらなく会いたい。
抱きしめたい。



「?!!」


ふわっと背中になにかの感触を感じた。
振り返るおれの視線の先にいたのは、、

「景都」


「おかえりなさい、穂積」

おれの目の前にいる景都
過去に戻る直前まで会っていたときと雰囲気が違う。

おれは言葉が思い浮かばなくて
少し驚いたまま景都を見ていた。

もしかして
もしかして景都は、、、。

「私、ちゃんと穂積のこと覚えていたよ。」
「えっ」
「ごめんね、言わなくて。」


「じゃ、俺が過去に行くことも?」
「うん、わかってた。高校生の時、穂積から聞いていたから。過去で私と会って、穂積が、戻ってきてからどうなるのか、不安だった。」

「、、、、」
「本当はね、ここで初めて会ったときも言いたかった。
でも、それじゃ、まるで私と穂積が惹かれ合うって知っていたから私を好きになるんじゃないかって。
私と穂積の高校の時のことを、知らなくても穂積は私を好きでいてくれるのか知りたかった。
だから、高校の時、穂積と会っていたこと、穂積とのこと、もうお義兄さんのことはなんとも思っていないことは言えなかった。」


景都はすこし、俯いて、まるで今にも泣き出しそうな顔と声で話をしていた。

俺は、気がつけば、景都を抱きしめていた。
腕の中の景都は震えていた。

泣いている?


俺の腕のなかにすっぽり入るくらい小さくて細い肩を抱きしめる。

「どんなことになっても、俺は景都に惹かれていたよ。実際、過去に行く前も、大人になった景都に初めて会った時から惹かれていたから。ただ、、」

「ただ?」

「俺には時間がないから。それなのに景都に想いを伝えることは俺の勝手なわがままだと思っていた」

「穂積」

「あの時も、10年前も本当は景都に嫌われたままでいいと思ってた。
時間は限られていたし、ずっとそばにいることはできないとわかっていたから。
景都のこと大事にしたかった・・・」

「・・・・」

「でも・・やっぱり抑えられなかった。自己満足でもわがままでも・・・
気持ちを伝えたくて、景都に触れたくて仕方なかった」

「・・・・・」

「時間がないとわかってても、すこしでもそばにいたかった・ごめん。つらいおもいさせて」

「そんなことない。そんなことない・・・」

景都が腕のなかで首を振る。


愛おしい。
愛おしい景都。
より気持ちは強くなる。
ずっと一緒にいたい・・・だけど普通のしあわせを手に入れてほしい・・。

景都…好きだ。
景都がしあわせになれるのなら、この思いはなかったことにしてもいいくらい・・。
愛おしい

やっぱり約束は守れないかも・・・

ここで、景都とはもう・・・

「穂積。大好きだよ。ずっと大好き。」
「けい・・・と。」


一瞬
強い春風が、俺たちを通り抜けた。

景都の長い髪が風になびく。
そして、景都の首から下げている名札が目にはいる。

...心臓外科 医師
佐々木景都



風が止むと
景都は


満面の笑みで
続けてこう言った。


「穂積、私が穂積を助ける。
だから、一緒にいよう?」

「・・・・」

「これからもずっと・・。」

「・・なんで景都が泣いてるの?」

景都の涙を指で拭う。
目に涙をためながら笑う景都がとても愛おしくて仕方なかった。

「穂積・・穂積の時間は私が作るから」
「うん」

景都が俺をぎゅっと抱きしめた。

「穂積の未来を私がもらってもいい?」
すこし不安そうに俺に質問してくる
だけど、俺がどうこたえるかなんてわかっているかのような笑顔がずるい。


「もうとっくに俺の時間も未来も景都のものだよ」

俺の返事を聞くなりとびきり嬉しそうに「ありがとう」とはにかんだ。

すこし恥ずかしそうな顔に俺まで照れてくる。


桜の花が舞い散るなか
腕のなかにある景都のぬくもりにしあわせをかみしめる。

これからもずっと
このぬくもりを感じていたい。

「景都・・ずっと一緒にいよう」


景都がうなずいてゆっくりと目を閉じた。

やわらかい感触を唇に感じて
甘くしびれるような感覚に身を委ねたと同時に
同じタイミングで、桜の木が黄金に光ったような気がした・・。