それから、
俺は彼女に会いたくて毎日、その神社に出向いた。

彼女は、不思議な人だった。
短い外出時間があっという間に過ぎてしまって、
いつも、もっと側にいたくて仕方なかった。

いつしか、彼女に惹かれていた。

彼女は、地元がここで、家が近いこと。
父と母と、結婚した姉がいること。姉には子供もいること。
同じ年齢なこと。
仕事は医療関係で、いま、事情があって休んでいること。

俺も詳しい病気のことは言わずに入院していること、
普段はある企業で働いていることなど、話しした。
自分に、余命があることは伝えずに。

彼女とはたくさん
お互いのことを話ししながら時間を過ごした。

彼女はよく笑う人だった。
でも、いつも悲しい笑顔なのが気になっていた。

桜の木の下で、いつも彼女は時間より早く来ていたとき、写真を見つめがら愛おしそうにしていることがあって、その写真に写るのは何なのか聞きたくても聞けなかった。

愛する人、、なのだろうか。

彼女に恋人がいるのかどうか気にはなっていた。
でも、自分にはタイムリミットがある。

どうしてもそれが足枷になってしまって聞けずにいるし、自分の思いも伝えられずにいた。

「明日、一緒に桜祭り行かないか?」

彼女に教えてもらった桜祭りが明日という日。
思い切って誘ってみた。

ここ最近は体調もいいから外出時間はもう少し長く取れそうだった。

彼女は、返事の代わりに自分の過去の話を始めた。

「私、中学生のとき、お姉ちゃんの婚約者、お義兄さんと関係があったの。」

中学三年のとき、家庭教師をしてくれていた姉の彼氏と関係ができたこと。
高校に進学したからも続いて、姉と結婚した後も関係は終わらなかったこと。

とても好きで、自分を見失っていたこと。

後悔していること。


「ごめんね、こんな話。でももう今は大丈夫。その人とも姉の旦那さんとしてちゃんと接することできているし、もう気持ちはないの。」
「、、、今はもう、好きじゃないの?」

「うん、もう大丈夫。あのね、、、、」
彼女が、言葉を続けようとしたとき、一気に風邪が舞い上がり桜の花が俺たちを包み込んだ。

それに気を取られて彼女の言葉が聞こえなかった。




桜祭り。
伝説なんて信じていない。
だけど、
もし叶うなら、もっと生きたいとおもった。


そして何より

彼女ともっと一緒にいたい、と。
もう少し、彼女と過ごす時間が欲しいと。


もし、過去に戻れるなら、彼女が、
あのときに傷つく前に助けたかった。

義兄とのことを話す彼女はとても傷ついて
消えていなくなりそうだった。

専門的なことはわからない。
でも素人から見ても
トラウマとかいう、何かまだ彼女にありそうな気がしていた。




自分の思いを伝えることはできないけれど、
彼女ともう少し早く出会いたかった。
彼女が傷つく前に。

桜祭り、彼女と過ごす中で、その思いはさらに強くなった。
無意識に、彼女の手を握りしめた。
小さい手が握り返してくれた。

とても、好きだとおもった。
愛おしいとおもった。

彼女を助けたいと思った。




桜祭りの夜、

消灯時間が過ぎて、病院を抜け出して
桜の木の前にたった。

さわさわと風の音がやけに響いて、ただ
俺の体を、風がまとわりつくだけだった。

奇跡なんて起きない。
当たり前のことを、わかっていて
縋ろうとしていた。

なんだか自分が滑稽になって、
病院へ戻ろうとしたとき

周りが急に明るくなった。

振り返ると大きな桜の木が黄金色に光っていた。。

「願いを叶えてやる」
頭の中にダイレクトに声が響いた。

男?女?
混ざったような声が、頭の中に届いた。
周りを見渡すけれど、
人影はない。

「、、、、」

「願いはなんだ?」
「あの人と同じ時間を過ごしたい。あの人が傷ついたあの時間に。」


「叶えてやろう。ただし、一年間だけだ。
過去に戻るのは。」



自分の周りを黄金色の光が、囲んだ。

意識が遠くなる中、


気がついたら、高校生の時の自分になっていた。
記憶は27歳の自分。


願うなら、彼女の笑顔をたくさんみたかった。
もう少し、同じ時間を過ごしたかった。