「湊、久しぶり」
そう言って私は、湊の前に座る。
「今日も良い天気だね」
…何も返事が無い。当たり前。彼はもうこの世にはいないのだから。
湊は完璧な人だった。顔も良ければ、スタイルも良い。そして、頭も良い。
…でも一個だけ欠点があった。それは、
嘘つきだということ…。
ついて良い嘘と、悪い嘘ってあると思うんだ。
亡くなる直前、湊は私にこう言った。
「嘘…つき続けて…ごめ…。でも…愛して…る…っていう…のは…ホント…だから…。俺の事…わす…れて…幸せに…なれ…よ…」
直後、病室中に無機質な機械音が響き渡った。
「ばかっ…忘れられるわけ、ないじゃんっ…」


そんな最愛の嘘つき彼と、私の忘れられない恋のお話。

聞いてくれますか?

「税田詩乃さん、税田詩乃さん。診察室にお入り下さい」
看護婦さんにそう言われて、慣れない松葉杖を慎重につきながら診察室に入った。
「こんにちは。あれからどうですか?」
主治医の安井先生は優しそうな若い女の先生。
「だいぶ松葉杖には慣れてきました。でもまだたまに、つまずきそうになって危ないですかね」
そう言うと、先生は特徴的な大きな目をふっと細めて、
「松葉杖を使うときは、まず自分の前に杖を持ってくるでしょ?その後がポイント。ぐっと自分の体を杖の前に持っていく。最初は辛いと思うけど、皆慣れたらなんて事無いから。頑張ろうね。」
「はい。分かりました。頑張ります」
「じゃあ、今日はもう良いよ。また2週間後ね」
「ありがとうございました」
そう言って、診察室を出て、右に曲がろうとしたら、ドンって誰かにぶつかった。「ヤバい倒れるっ!」って思ったけど、なかなか衝撃が来ない。そっと目を開けてみると、
「うわぁ…」
「大丈夫!?」
その人はまさに"天使"って言葉が似合う人だった。優しい色の金髪にぱっちりとした目、すっと伸びた鼻…全てが整ってる。
「……ぇ、ねぇ!聞いてる?」
揺すぶられて、我に帰った。
「はっ!あ、だ、大丈夫です。」
「ホントに?怪我はない?」
「はい、だ、大丈夫です。ありがとうございました。」
松葉杖で体を支えて立とうとするけど、
「あ、あれ…立てない…」