カラリと乾いた空気をひとつ吸う。秋の空は高いっていうけれど、その実感はあまりない。ふみしめた落ち葉の感触はなんだか好きだ。紅葉でできる赤茶の絨毯には毛糸を結んで、季節問わずそばに置きたいくらい。
「イズミせんぱい」
その声に思わずびくりと肩がはねた。振り返らなくてもわかる。なんてことのない、いつも聞いているハヅキの声だ。
2限に向かう寮の玄関前で遭遇してしまった。今はなんとなく会いたくなかったのに。
「あ、お、おはよ」
「せんぱい、きょうお昼一緒に食べよ」
「ああ、うん、いいけど、」
「やった、じゃあ昼に食堂で」
やった、とはにかんだ顔が、太陽光に照らされてか、はたまた私の脳内バグか、やけに眩しく見えた。意識する、というのは中々めんどくさいものみたいだ。
ただ、おはようって、言っただけなのにな。
昨日、シンジョウの部屋で言われたことを思い出す。
シンジョウが私に対して持っている感情と、私がハヅキに対して持っている感情は、きっと似ているって。
ーー本当はどこかで、気づいていたのかもしれないけれど。
シンジョウにそう言われた瞬間、真っ先に、シンジョウは私に対して好意を持っているって思ってしまった。それはつまり、私がハヅキに惹かれていることと同じなのだ。
厄介で、難しい、こんな感情いらないのに。
『ごめん、大丈夫だから、今は何も言うな』
『でも、』
『……返事とかいらない。わかりきってる。でもおれがイズミのこと特別に想ってることは、頭の片隅に入れといてくれ』
そう言ったシンジョウは私に背を向けて眠りについた。私はそれを見てひどく泣きそうになって、彼の部屋を飛び出して。
扉の前で待っていたハヅキと鉢合わせだけれど、実はあの後ミナミたちに見つかって夜遅くまでテレビゲームに付き合わされてしまったのだ。