「ンーッ、やっぱ山の空気は違うねー」

「ホントさいこうッス、ミナミさん!」


あたりを見渡すと一面緑。ミナミの言う通り、私たちの大学がある街中とは空気が違う。水道水とミネラルウォーターの違いと同じ。


「じゃあみんな、とりあえず荷物はコテージにおいて川集合ね!」


ミナミの掛け声とともに、みんなが声を上げて2棟ならんだログハウス調のコテージまで駆けていく。その数、男女合わせて約20人。

キャンプ合宿――これもミナミ主催の寮生イベント。ミナミが一声上げただけでこんなにも寮生が集まってくる。本当に、人の輪の中心にいる人間ってすごいよなあとしみじみ感じてしまう。


「イズミ何してるの、もたもたしてると置いてくよー」

「ああゴメンゴメン、後ろついてくから気にしないで」


あ、そう?なんて言いながら、ツカちゃんと一緒にミナミも浮足立ってコテージに向かっていく。

その後姿を見ながら、――斜め後ろでだるそうにしているハヅキの元へと駆け寄った。


「ハヅキ、コテージ行かないの」

「……行くけど、行ったらずっとそこで寝てそう」

「確かに」


目を細めながら、だるそうに日陰に身を寄せる浅井葉月はそれだけで絵に描いたような容姿をしている。

……というか、こんなにだるそうにするなら来なきゃよかったのに。馬鹿だなあ。

ハヅキがこういったイベント事が苦手なのは知っている。にもかかわらず、ミナミが『ハヅキも来いよ!』と声をかけたときには珍しく素直に頷いたらしい。本当によくわからないやつ。


「ハヅキって野外イベントいちばんキライだと思ってた」

「キライだよこんなの」

「なにそれ、じゃあなんで来たの」

「……自分で考えて」


なんだそれ。

もういいです、行きますよ、ってハヅキはいつの間にかわたしの前を歩き出す。

本当に細くて華奢なシルエット。太陽光を浴びるのはこれが初めてなんじゃないだろうか。ハヅキが色白なのは元々だろうけれど、きっと外に出ていないのも理由の一つだと思う。