「……それはイズミせんぱいも、でしょ」
「ハヅキの方が優れてる。去年の美大祭なんて、ほんとうに、たまたまだったの」
「そんなことないよ」
「そんなことある」
「……捻くれ者」
「どっちが」
わたしも、ハヅキも。
周りから天才と呼ばれて、絵を描くことを余儀なくされている。描くものはすべて称賛されて、対等に見られることなく、常に上の存在のように扱われる。
本来、評価されるものでもなんでもない。描きたいものを描いているだけなのに、それがいつの間にか『描かなくてはいけない』ものになってしまった。
「……自分の絵、嫌いなんでしょって、ハヅキはそう言ったけど、わたしは自分の絵を嫌ってなんかないよ」
「……評価されるのが嫌なんだ?」
「うん、たぶん、そうなんだろうね」
「はは、せんぱい、ぼくたち、捻くれてるね」
「……」
わたしはハヅキの絵を認めているし、ハヅキはわたしの絵を認めている。でもきっとお互い、そんなことが嬉しいんじゃないんだ。
そんな為に、絵を描いているわけじゃないんだ。
「……ほんとだね、捻くれてる」
「ねえ、せんぱい」
「うん?」
「美大祭、勝負しようよ」
「勝負?」
「どっちが最優秀とれるか、勝負しよう」
わたしも、ハヅキだって、認められたいわけじゃないくせにーー最優秀をとることがすべてじゃないって、わかっているくせに。
「……いいよ」
「はは、たのしみ」
この、色のない浅井葉月の絵を超えてみたいって、わたし、思ってしまった。