爺さんたちがしている話は決して面白くはない

その時話していたのは

『コーヒー派か紅茶派か』

という話だった



うんちくを並べる爺さんに
隣の女性客とママさんも苦笑いだ


俺は入りたいわけでもないが輪に入れなかった
ママさんはそんな俺の気持ちを察したのか
あなたはどっち派ですか?と
話を振ってくれた

そこからはたわいもない話をしつつ
時間が流れていった



とうやら最近出来たと思っていたこのお店は
もともと隣町にあったお店らしく
ビルの立退きが理由で近場である
この物件に移ってきたとのこと

爺さんや隣の女性客もその時からの常連だ


その後、カラオケも爺さんたちと仲良く歌った

みんなお互いに拍手をする平和で温かい店内だ

これもママさんの努力の賜物だな



少しでも彼女候補がいたらな、と
下心をもって来店した自分が恥ずかしい



しかーーーーし




3時間ほど常連さんたちとおしゃべりした
その話の中でこのお店には
若い女性の常連客がいると聞いた


なになにぃ、いるんじゃないの女子ぃ!


いや、期待をし過ぎるのは良くない


とりあえず今夜は爺さんたちと楽しんで帰ろう


俺はデンモクを手に取り歌える曲の中で
唯一爺さんの知っている曲
布施明の『君は薔薇より美しい』を選曲した


イントロが流れはじめ爺さんたちは
気分良く手拍子を叩いてくれていた


俺も気持ちよく肩を揺らしながら
マイクを握った


そんな時、その若い女性客が来店したのだ






か、可愛い






布施明には申し訳ないが
俺はなんかこの曲を歌うのが恥ずかしかった


年齢はおそらく20代前半でとにかく可愛い
髪は明るめの茶髪で身長は小さめ

その子はママさんに軽く頭を下げて
俺の隣へ座った


ちょっと嬉しい


というかカウンター席はもう俺の隣しか
空いていなかっただけなんだけどね


俺は布施明を熱唱しひとしきり爺さんたちと
盛り上がっていた


ふと隣を見るとその子も笑顔で
手拍子してくれているではないか


この時代にこんな気の使える女子がいたことに
まず俺はビックリした




布施明を知っているはずもなかろう
爺さんたちとも歳は50歳近く離れている

その中でこの子が常連としてどうゆう立ち回りを
しているのか俺は気になった