―……



目の前に広がるのは、真っ黒な夜の海


昼間はたくさんの人で賑わうこの場所も
今は静寂に包まれている

響くのは

規則正しい波の音と、私の荒い呼吸音だけ



「はっ、はぁ……ごほっ」



全力で走ったせいで、息が苦しい


でもどうせ、またすぐ苦しくなるから


息を切らしながら
ためらわず、海に足を踏み入れる


裸足のまま、飛び出してきたせいで
足はあちこち擦り傷だらけ


海水が染みる




痛い



冷たい



だけど、もう引き返せない



ざぶざぶと奥へ進む



押し寄せる波は、ひざに、腰に、胸に



早くもっと奥に



もっと深くに



海水を吸った服は重たくて、思うように動けない




……今度こそ間違えない




ちゃんと死ぬ




そしたらきっと、あの人達は




幸せに、なれる




「っ、げほ……っ」




口の中に海水が流れ込んでくる




苦しい




寒い





もう、足もつかない





…………後はこのままー……





溺れ死ぬだけ