矛盾してる


私がいるから寂しくない


でも、私を殺すんでしょ?


殺して、くれるんでしょ?



「殺す人間に、そういう事を言わないで下さい
変に優しくしないで下さい」



慣れない優しさに、感情が揺らぐ

このひとが、私に向ける言動に反応してしまう



泣きたくなったり


熱くなったり


穏やかになったり



私は



そんなものいらない


欲しくない



誰かの言葉に期待したり、落ち込んだり
一喜一憂するのはもう疲れた


ずっと優しくしてくれる
気にかけてくれる人なんていない


この人の優しさも、その表情も言葉も
一過性のものだ


すぐに消えてしまう



『お前がいるから―…』



……私を必要としてくれる人なんて


いるわけがない



「……帰ります」



帰る場所なんて

帰れる場所なんて、本当はないくせに


山を下りようとする私を、榊は止めなかった

何も言わず、ただ黙っていた


俯いていた私には

その榊の表情は分からなかったけど


なんとなく


榊は静かに笑っているんだろうなと


そう思った