「山ばかりだと飽きるからな
この時間になると、風も気持ちいい」


夕暮れ

昼の熱気も随分と収まってきた
肌に触れる潮風は確かに気持ちいい

寄せてはかえる波の音も
きらきらと海面を走る光も綺麗


「…」


ここに来たのは、あの日以来

死のうと海に飛び込んだ、あの夜以来


……。


……そういえば
どうして榊は私の家を知ってたんだろう


堤防の上、隣で
目の前の大海原(おおうなばら)を
一心に見つめている榊を
横目で、ちらりと盗み見る


榊がここで私を助けたのは間違いない


気になるのは、その後


気づいたら、私は家に
自分の部屋のベッドの上にいた


海水で全身びしょ濡れだったはずなのに
服も髪も身体も乾いていて


……自然に乾くにしては速すぎるし
服も髪も、べたついたりしてなかった気がする