「……それだけでいいなら」


少しだけ躊躇(ちゅうちょ)したけど
珍しく…と言うより初めて見た
不安そうな表情のおばあさんを前にして
無理だって断るのは気が引けた


……それに


目が覚めた時
そばに誰の気配もないと
心細く感じるかもしれない


浮かび上がってくるのは、過去の自分の記憶


打ち消すように、頭を振った



「良かった
助かるよ、ありがとう」


安心したように表情を緩ませて
お礼を言うおばあさんに
私はぎこちない笑顔を返した


役に立てるなら嬉しい
いつも助けてもらってばかりだから
返せるものがあるなら返したいとも思う


ただ、気がかりなのは―…



「じゃあ、よろしく頼むね」

「はい」



午後

外出の準備を済ませたおばあさんが
玄関先で振り返る

頷いて、私はおばあさんを見送った


「…」


残された私は
閉ざされたドアをしばらく見つめた後
客間へ移動した