ことほぎのきみへ






続く無言


不意に、あの人がこちらを振り返る



「あのさ」

「はい」

「…どこかで会ったことある?」

「…え」

「なんか今のやりとりに既視感あって」

「…」


不思議そうに首を傾げながら
語りかけてくるこの人に
なんと答えたらいいのだろう







「…よくあるやりとりだと思います
多分、誰かと勘違いしてるのでは…」


…どうして
誤魔化してしまったのか分からない

気づいたらそう返してしまっていた


「そう。俺の勘違いか」


疑いもせず
すんなり受けいれ、また前を向く


……少し、後悔した

正直に言えば良かったのにと


でも、これで
覚えてないことははっきりした


……無理に思い出してもらわなくていい


あの記憶は私だけ覚えていればいい


この人にはこの人の今がある
それを優先して貰いたい




「おーい!いろはー!!」


亜季の声が聞こえる

顔をあげると、少し先で
私に向かって両手を振る亜季の姿があった

隣にはつゆき先輩もいる


「あの子達かな」

「はい」

「人も多いし、この辺ならもう大丈夫だね」


繋いでいた手がほどけていく


「じゃあね
もう絡まれないように気を付けて」


優しく忠告を残し、踵を返す

去っていこうとする彼を、とっさに呼び止める



「っ、あの!」



あの時の言葉に救われました


あなたのおかげで生きるのが楽になりました


あなたがいたから今私はここにいられます



「…ありがとうございました」



伝えたい思いをその言葉に込めて、あの人に渡す


なんだか泣きそうになりながら


それでも笑顔をつくって頭を下げた