「いろは」


「……」


「良かった。大きな怪我もなさそうで」


「……」



入口で呆然と立ち尽くす私に気付いたひさとさんが、横になってた体を起こして私に顔を向ける


いつものように

平然と

何事もなかったように私に言葉を向けるけど



私は、ひさとさんのその姿に


傷だらけの姿に


厳重に巻かれた左手の包帯に




激しく動揺して、叫び出しそうだった




「…………手……」



声が、体がかたかたと震える


立っているのもやっとで



「ああ。今はちょっと動かせない」



「…」



「でも、大丈夫
手術成功したから」



「……」



……全然、大丈夫じゃない



「運が良かったよ
運転手が咄嗟にハンドルをきったおかげで衝突は免れた」



…………全然、良くない………




『それでも絵が好きだから』



『描くことが生き甲斐なのよ。ひさとは』



『自分のために描いてる』



『誰のためでもない、自分のために』





………大切な人が、一番大切にしているものを




私は……




私が




私の、せいで





「……っ」




力なくその場に崩れ落ちる






「いろは」




「……お願いだから、泣かないで」





泣き崩れる私にひさとさんは懇願するように
言葉を向けた




でも、私は




そんな優しいお願いすら




叶えてあげられなかった