「……あなたがいなかったら私は
今、ここにはいなかったかもしれない」



あの日


あなたに出会えてなかったら


抱えるものの重さに耐えられなくて

与えられる痛みや苦しみに耐えられなくて


自分の命を投げ出していたかもしれない

楽な方へ行こうとしたかもしれない



私を大切だと思ってくれてる人達を

悲しませて、傷付けて


自分と同じ苦しみや痛みを

背負わせていたかもしれない



そんな可能性だってあった




「だから…」



「私を生かしてくれて、救ってくれて
ありがとうございます」



泣きそうになりながらも笑って

『ありがとう』を伝える




……
……
……




「……いろはは
やっぱり分かってないんだね」



続いた沈黙の後

ひさとさんはぽそりと呟いた

周囲がすごく静かだったから
その小さな呟きは私の耳にしっかり届いた




「きみの存在に救われたのは俺だって同じなんだ」



「きみはたくさん俺に謝って
たくさんお礼を言うけど」



「ありがとうって言わなきゃいけないのは俺の方」



「きみがいてくれたから
俺も今、ここにいるんだよ」



「傍で寄り添ってくれるきみに
きみの何気ない言葉に、笑顔に
俺は救われてる」



「だから、……俺の方こそ、ありがとう」




……
……
……



貰ってばかりだって

救われるばかりだって


思ってた



なのに



……『救われた』だなんて『ありがとう』だなんて



…………そんな風に優しく言われたら



さらに気持ちを抑えられなくなる