「……情けない話になるよ」

「情けない?」


手にしたスケッチブックを眺めて
しばらく口をつぐんでいたひさとさん

黙って待っていた私に視線を戻すと
小さくため息をついて
そんな風に話を切り出した



「俺の言葉や行動で
きみが喜んだり笑ったりしてくれる
そういう姿を見て俺は、昔の自分を救った気になってる」


「きみは俺と似てる」


「かけがえのない人を失ったこと
感情を抑えつけて生きてきたこと
「誰か」の言葉に縛られてたこと」


「望んでないものばかり与えられたこと」




「きみと初めて会った時も
「似てる」って思った」


「雰囲気や表情、少ない言葉から滲む気持ち
胸に抱えている何か。全部、「似てる」って」


「俺もあの時、かなりひどい状態だったから」


「毎日毎日、聞きたくない言葉
会いたくもない人に囲まれて
父さんや母さんの事を思う時間さえ奪われて
泣くことも、悲しむことも出来なくて」


「抜け出したいのに抜け出せなくて
縛られたくないのに縛り付けようとする」


「言葉で訴えても拒んでも伝わらない
なら俺はどうすればいいんだって」



「笑えもしない、楽しめもしない
泣くこともできない、悲しめもしない」



「ただ苦しいだけの時間を過ごしてたから」



「……きみに言った言葉は、半分自分に向けてた
俺が誰かにそう言って欲しかった言葉」


「してもらえたら嬉しかったこと
そうしてもらいたかったこと
そうしたかったこと」



「自分を見てるみたいで
だから、放っておけなかった」



「きみが笑うと、喜んでいるのを見ると救われる
あの頃の俺を
笑顔にさせてるように錯覚するから」