「……矢那さん。
ひさとさんは何をしたら喜んでくれますか?
笑ってくれますか?」


悩みの元凶を消し去ることは私には出来ない
当事者のひさとさんや矢那さんでさえ
長年解決できてない難しい問題だから


ならせめて


ひさとさんが少しでも穏やかにいられる時間をつくりたい


ほんの一瞬でもいいから


それを忘れられる時間を


心から笑って、喜んでくれることをしてあげたい



「…」


真剣な顔で訊ねる私を見て
矢那さんは少し目を丸くして

それからとても優しい眼差しを私に向けた


「今してるわ」

「……え?」

「これ」


矢那さんは私の手元を指差した
そこには今しがた切り終えた食材があった


………?


首を傾げる私に矢那さんはまたくすりと笑う


「いろはちゃんの作った料理」

「……料理?」

「前も言ったでしょ?
いろはちゃんの料理、すごく喜んでたって」


「ひさとが喜ぶもの
いろはちゃんが作った料理」


繰り返す矢那さん
私もぼんやりその言葉を復唱する


「…………料理」


「いろはちゃんの味付け、かなりひさと好みよ」


「料理だけじゃない
ひさとはいろはちゃんといる時はすごく落ち着いてる」


「……」


……そんな風に言われても実感がなくて


……私から見たら無表情でも
矢那さんには違うように見えてるのが不思議で


「…前に、矢那さん
慣れれば分かりやすいって言ってましたけど
私は未だにひさとさんの表情が読めないです…」


「表情は…まあ確かに読みにくいかもね
でも雰囲気とか癖で分かるわよ」


「……癖?」