「…っ!」


一瞬の、鋭い痛み


ぼんやりしていて、包丁で指先を切ってしまった

裂けた皮膚から血が滲んで溢れてく


……やっちゃった

料理をしてて、けがをするのなんて中学の頃以来



鋭い痛みの後に遅れてやってきた
脈打つような鈍い痛みに顔をしかめていると


「……いろは?大丈夫?」


不自然に音が切れた事に気づいたひさとさんが
キッチンへやって来て

じっと指先を眺めてる私を見て
ぴくりと、ほんの少し眉を動かした


「切ったの?」

「少しなので大丈夫です」

「だめだよ。ほら」


置いてあったキッチンペーパーで
切った場所を押さえようとする私の手をとって


そのまま自分の手ごと

ひねった蛇口の水で傷口を洗う



……っ


すぐ傍のひさとさんを
触れられたその手の感触を意識してしまって


…………恥ずかしさが、涌いてくる




ひさとさんに対しての反応が
明らかに変わった事を、自覚している


ひさとさんの前で
動揺したり、赤くなったりすることが増えた

前まではそこまで深く気にしなかった

言葉や距離、行動


だけど、今は……


ほんの少し触れられただけでも顔が熱くなって

近くにいられると心臓がどきどきして


落ち着かない…